「ひめゆりの塔」(石野径一郎)①

沖縄はいまだに蹂躙され続けている

「ひめゆりの塔」
(石野径一郎)講談社文庫

カナの所属する特志看護師部隊
「ひめゆり部隊」は、
上陸を開始したアメリカ軍の
攻撃からのがれるため、
南風原野戦病院を放棄し、
移動を決定する。
介護活動をしながら南下する中、
負傷兵や引率教師、
そして仲間たちが次々に…。

太平洋戦争において日本で唯一、
国土が戦場となった沖縄戦。
官民あわせて
18万人もの死者を出した大激戦。
それがいかに
酸鼻を極めたものであったかが
本作品を読めば
痛いほど伝わってきます。

本作品は数ある戦争文学の中で、
最初期の作品の一つです。
著者が沖縄戦を
直接経験していないこともあり、
ともすれば「史実と違う」といった
受け取られ方をした
時期があったと記憶しています。

しかし、本作品の肝は、「怒り」です。
戦後、ふるさと沖縄を訪れ、
蹂躙されつくした
その無残な姿に心を痛めた著者の、
「怒り」の慟哭なのです。
読まないことにはその激しさを
到底理解することはできません。

実は、学生時代に初読した際には、
私はこの「怒り」が
よくわかっていませんでした。
理解できるようになったのは、
実際に沖縄を訪問してからです。

数年前、私は修学旅行で生徒を引率して
沖縄に行きました。
そのときのガイドの説明では、
沖縄の町は坂道が多いとのことでした。
確かに山の中に
町があるような印象を受けました。
でもそうではないのです。
高台へ移動すると、
広々とした平地が
コンクリートで埋まり、
そこにヘリや軍用機の数々が
ひしめいている光景を目にしました。
生徒も一瞬で
沖縄の現状を理解しました。
平地がないのではないのです。
平地のほとんどを
基地に奪われているのです。
平地がなければ
農業も工業も商業も
発展するはずがありません。
沖縄は、米軍基地によって、
(それを本土から
押しつけられることによって)
産業が発展できない
構造になっているのです。
戦後70年を過ぎた現在でも、
沖縄はいまだに
蹂躙され続けているのです。

太平洋戦争は
数え切れないほどの悲劇を
私たちの国にもたらしました。
しかし、最大の悲劇は、
日本人が同じ日本人であるはずの
沖縄の民と土地を蹂躙し、破壊し、
さらには戦勝国に売り渡し、
現在もそれを改めることなく
継続していることに
あるのではないかと思うのです。

若い人にぜひ読んで、
考えてもらいたい一冊です。

(2019.8.12)

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